診療内容
甲状腺疾患と妊娠・出産・授乳について
「病気が妊娠に影響しないか心配」「妊娠や出産で病気が悪化しないか」「赤ちゃんに影響しないか」「薬を飲んでいても大丈夫か」妊娠を考えるとき、こんな不安を抱く方は少なくありません。
甲状腺ホルモンに異常がなく安定している状態であれば、妊娠・出産に特別な心配はほとんどありません。ただし安心して妊娠・出産を迎えるためには、妊娠前から甲状腺の状態を整えておくことがとても大切です。
ここでは、よく見られる甲状腺疾患と妊娠・出産・授乳の関係についてご説明します。

妊娠初期に一時的に甲状腺ホルモンが増えることがあります
妊娠初期(特に悪阻の時期)には、胎盤から分泌されるホルモンが一時的に甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンがやや多くなることがあります。
これは一般の妊婦さん100人に2人ほどに起こりますが、自然に落ち着くことがほとんどで、お腹の赤ちゃんに影響はありません。
バセドウ病と妊娠・出産・授乳
妊娠中の経過
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが多くなる病気です。
治療を続けている場合でも、妊娠が進むと自然に落ち着いて薬を減らせることがあります。
ただ、出産後2~4ヶ月頃に、一時的に甲状腺ホルモンがまた増えること(無痛性甲状腺炎)や、バセドウ病が再発することがあります。
無痛性甲状腺炎は自然に治るので、バセドウ病の薬は使いません。
妊娠中の注意点
治療をしないまま甲状腺ホルモンが多い状態で妊娠すると、流産や早産のリスクが高くなります。
そのため、妊娠前に甲状腺ホルモンをしっかり整えることが大切です。
また、バセドウ病の薬(メルカゾール)は妊娠初期に使うとごく稀に赤ちゃんに影響する可能性があり、5週から9週は他の薬(チウラジール、プロパジール)に切り替えることがあります。妊娠を考えている方は、あらかじめご相談ください。
赤ちゃんへの影響
バセドウ病の原因となる抗体(TRAb)は胎盤を通り、赤ちゃんに一時的に甲状腺ホルモンが多い状態を引き起こすことがあります。
これは妊娠中の抗体値を調べることである程度予測できます。必要な場合は、出産時に産科や新生児科のある病院をご紹介します。
授乳について
バセドウ病の薬は、量を調整すれば服用しながら母乳をあげることができます。
母乳育児をあきらめなくても大丈夫ですので、安心してご相談ください。
甲状腺機能低下症(橋本病など)と妊娠・出産・授乳
妊娠前・妊娠中の注意点
甲状腺ホルモンが不足している状態(橋本病を含む)は、妊娠しにくくなる原因のひとつになることがあります。
ただ個人差が大きく、重度でも妊娠することはあります。
妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、妊娠前から十分な量を服用し、妊娠中もホルモン量を調整していくことが重要です。
治療をせず甲状腺ホルモンが不足したまま妊娠すると、流産や早産のリスクが高まります。
反対に、しっかり治療していれば、一般の方と同じように妊娠・出産ができます。
赤ちゃんへの影響・授乳
甲状腺ホルモン(チラーヂン)は、体内で作られるものと同じ成分なので、飲んでいても赤ちゃんに奇形が起こる心配はありません。
また、授乳中も問題なく服用できます。安心して母乳育児を続けてください。
産後に気をつけたいこと

橋本病の方や出産後に初めて甲状腺の炎症が強くなる方は、産後2~4ヶ月頃に「無痛性甲状腺炎」という一時的に甲状腺ホルモンが多くなる状態になることがあります。
これが落ち着いたあと、逆に甲状腺ホルモンが少なくなり治療が必要になることもありますので、産後も定期的に甲状腺の血液検査を受けることをおすすめします。
安心して妊娠・出産・授乳を迎えるために
甲状腺の病気があっても、適切に治療を続けて体調を整えていけば、妊娠・出産・授乳まで問題なく過ごせることがほとんどです。
「病気があるから…」とあきらめたり、一人で悩んだりせず、どうぞお気軽にご相談ください。
当院では、甲状腺専門医が産婦人科や小児科の先生と連携をとりながら、お母さんと赤ちゃんの健やかな時間をサポートしています。
あなたの状況にあわせて、安心して毎日を過ごせるよう一緒に考えていきます。